HOME > 認定プラクティショナーインタビュー | 第1回 水戸重之 様
水戸氏が「交渉」に関心を寄せるきっかけは、弁護士となってすぐに訪れた。日米の大手企業間のM&A交渉に立ち会ったのだ。「交渉の途中で突然米国側の交渉団が席を立って引き揚げてしまったりしました。こういう世界があるのかと。」いわば洗礼のような体験だったと振り返る。
2000年シーズンオフには、解禁されたばかりのプロ野球選手代理人にもなった。後にメジャーリーグで活躍する斎藤隆投手(当時横浜ベイスターズ)の代理人交渉を依頼され、以後多くの選手代理人をつとめた手掛けた。交渉のたびごとに進捗を取材されるという経験もした。「交渉とその結果が世間からどうみられるか、ということも意識せざるを得ませんでした。今思えば、近江商人の「三方よし(自分良し・相手良し・世間良し)」ですね」。
その後、様々な交渉ごとに携わる中で、交渉理論の重要性を実感することになる。「交渉理論を知っていれば、自分で使わなくても、相手の手の内がある程度わかる。結果冷静な対処ができるようになる。交渉学の重要性をますます感じるようになりました」。
最近では、これまで身につけたことを学問として体系的に勉強したいと考えていたという。そんなタイミングで、今回交渉学のプラクティショナー養成講座に目が留まった。「一度はしっかりと勉強してみたかったんです。また、単に講座を受講するだけではなく、プラクティショナー認証制度が設けられているのも魅力でした。第三者の評価を受けてみたいと考えていましたので」。
本講座では4日間にわたり、理論の講義だけでなく、数回の模擬交渉に取り組んでもらう。現実社会での複雑なケースに身を置く水戸氏にとって、扱うケースは平易すぎるとは映らなかったのだろうか。
「いいえ。どれもリアリティのある事案を適度にシンプルにしたケースになっていて、とても有効なものでした。基本形をいくつも何度もトレーニングするというドリルの有用性を感じました」。
日々、職業として依頼者より交渉を請け負う「弁護士」。最後に水戸氏にとって今感じている「交渉」の意義を聞いてみると、意外な視座が語られた。
「人が社会で生きていくことは『合意形成』の連続。そう考えると、交渉学の目指す『wise agreement=三方良し』の考え方、そこに至るコミュニケーションの技術を、ひろく誰もが身に付けていくことは、とても大事なことだと思うのです」。
今、水戸氏は自らが講師を務める筑波大学大学院や早稲田大学大学院の講座でも、この交渉学のエッセンスを学生に伝えている。社会に生きるすべとして身につけてもらいたいという思いからだ。
「交渉を通じて、その場の合意だけでなく、『合意できてよかったね』、さらに『これからも一緒に仲間としてやっていきましょう』という状態を作りたい。そんな関係性をたくさん作っていけば、世の中はより良くなっていくと思っています」。
それは人が互いに『戦略的パートナー』となる社会と言えるだろう。水戸氏の言葉に交渉学の目指す世界が重なる。
水戸重之
Shigeyuki Mito
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科卒。様々な企業、経営者、トップアスリートをクライアントとして、契約交渉、経営アドバイスや紛争解決を手掛ける。筑波大学ビジネス科学研究科(企業法学専攻)講師、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科講師。
近年の著書
・『著作権の法律相談I/Ⅱ』(2016)
・『IT・インターネットの法律相談』(2016)
・『メジャーリーグの書かれざるルール』朝日新聞出版(監訳2010)他